タクミシネマ         ハリウッドランド

ハリウッドランド   アレン・コールター監督

 1950年代に、テレビドラマ・スーパーマンを演じた俳優ジョージ・リーブス(ベン・アフレック)の、自殺した背景をさぐった映画である。
ドキュメンタリーとは謳っておらず、原因究明は監督の自由な想像によっている。
そのため、映画の流れが自然で、観客も一緒になって推理を楽しむことができるのだが、
そう言えるのは後半になってからである。
前半にもたつきがある。

photo of hollywoodland,  adrien brody, ben affleck, diane lane
imdbから

 団塊の世代なら、クラーク・ケントの名前は、誰でもが知っている。
スーパーマンは鋼鉄よりも強く、高いビルもひとっ飛びの超人である。
彼は地球外からやってきた宇宙人のはずだが、人間以上に人間らしかった。
スーパーマンを演じたジョージ・リーブスは、自殺という想像できない死に方をした。

 彼は人気ドラマの主人公になって、イメージが固定されてしまった。
そのため、他の役が回ってこなくなってしまい、それを悩んでの自殺だと言われたものだ。
しかし、彼の死には、当時から疑いの声があった。
その疑問を映画化した。
ハリウッドのゴシップ好きが飛びつきそうな映画だが、作りはわりと地味である。

 スーパーマンをテレビで知っている世代としては、まずベン・アフレックの演じるスーパーマンが馴染めない。
そのうえ、完成したスーパーマンのイメージを植え付けられているので、
スーパーマン誕生の裏話がほんとうの話だと、理解するのにちょっと時間がかかった。
これは映画の出来とは関係ないが。

 売れない俳優のジョージ・リーブスは、映画会社MGM重役の妻トニー(ダイアン・レイン)の愛人となった。
すると、彼女はさまざまなご褒美をもたらしてくれ、彼にスーパーマンの役をもたらしてくれた。


 当時のアメリカは、テレビはマイナーで、映画こそ本流だった。
そのため、テレビタレントは格下だった。
これは今でも変わらないらしい。
子供相手の軽い番組だとバカにしていた彼だが、絶大な人気番組に成長した。
当時の男は、女性に養ってもらうのは恥だと思っていた。
そのため彼は、愛人の保護から何とかして抜け出したかった。

 自分で映画の企画もし、結婚も考え、婚約もした。
しかし、そんな時に彼は死んでしまったのだ。
トニーの嫉妬か、婚約者の逆上か、それともトニーの夫エドガー(ボブ・ホプキンズ)の差し金か。
ジョージの母親ヘレン(ロイス・スミス)の依頼によって、
落ちぶれた私立探偵のシモ(エイドリアン・ブロディ)が、1つ1つ謎解きを始める。

 この映画は他殺だろうと言っているが、犯人を名指していない。
3通りの可能性を示唆して、映画は終わっている。
この作り方が正解だろう。
訴訟を覚悟でなら話は別だが、「ゾディアック」のように犯人を特定するのは、慎重のうえにも慎重であるべきだ。
すでに鬼籍に入った人が多いとはいえ、まだ近親者が生きているのだから、プライバシーには慎重な配慮が必要だ。

 「ゾディアック」も当時の街並みなどを、忠実によく再現していたが、この映画はそれ以上だった。
ツートンカラーの車など、当時のファッションが懐かしい。
現代は軽い時代といわれながら、
画面から見る限りでは、むしろ当時のほうがポップだったように感じる。
フレーヤーのスカート、ロリポップ・キャンディなどなど懐かしい。

 年下の愛人をもつトニーを演じたダイアン・レインが、
中年女性の色気を紛々とさせて、じつに魅力的だった。
白人の女性たちは、若いときこそきれいだが、容色の衰えがとても早い。
しかし、彼女はアジア人女性のように小柄なせいか、老いてもチャーミングさを失わず、しかも内心の強さも兼ね備えていた。

 ハリウッドは華やかだが、常識外れな場所だと言われる。
この映画でも、トニーの夫は自分が愛人をもっているためか、トニーの男遊びにまったく文句を言わない。
しかし、これは難しいことだ。
男は愛人をもっても良いが、女が愛人をもつのは許さないのが、世の男たちのはずだ。
しかもトニーには何の稼ぎもないのだ。


 この映画で描かれるトニーの夫エドガーには、妙な魅力を感じる。
男遊びをしている奥さんを、心から愛しているのだ。
彼女が楽しければ、愛人をもっても構わない、と彼はいう。
1夫1婦制が浸透した今では、こんなメンタリーをちょっと想像できなくなっている。
     2006年のアメリカ映画 
   (2007.6.28)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る