タクミシネマ         ディセンバー ボーイズ 

 ディセンバー ボーイズ  
 ロッド・ハーディー監督

 現代から振り返って、1960年代へと舞台はとぶ。
オーストラリア内陸部にある、キリスト教系の孤児院で暮らす4人の少年に、夏休みの休暇旅行がでた。
それは海辺の村に、遊びに行くというものだった。

 マップス(ダニエル・ラドクリフ)、ミスティ(リー・コーミー)、スピット(ジェイムズ・フレイザー)、スパーク(クリスチャン・バイアーズ)の4人は、はじめての村に感動し、海辺の生活を堪能した。
しかも、養子になれるという情報に舞い上がった。

photo of december boys,  daniel radcliffe
imdbから

 マップスだけは、すでに変声期も過ぎており、養子に興味はなかった。
彼は年上の少女ルーシー(テリーサ・バーマー)との淡い恋に夢見心地になる。
しかし、他の3人は、孤児院をでる絶好のチャンスである。

 現在のオーストラリアでは、孤児の大半は、施設ではなく養親の元で暮らしている。
 しかし、1960年代は施設で暮らすのが普通だった。
施設で暮らす孤児たちには、家庭での暮らしが憧れであり、なかなか手の届かないものだった。
そんなところへ、養子の話である。
彼等が色めき立つのも無理はなかった。

 舞台は、3軒しかない海辺の貧しい村。
彼等を招いたのは、敬虔なクリスチャンのマクアンシュ夫妻だった。
マクアンシュ夫人がガンで幾ばくもないので、元気な子供たちを招いたら、明るくなるのではと考えてのことだった。
夫妻は子供たちを可愛がった。

 施設から解き放たれた子供たちは、最初はのびのびと村の生活を楽しんだ。
が、養子の話が行動を萎縮させ始めた。
よい子になろうとし始めたのだ。
養親になるだろう男女にたいして、哀しいまでに懸命にアッピールする。
その意識が、彼等の友情に微妙に影を落とす。
このあたりの心理描写が上手い。

 マクアンシュ夫妻や養親になる男女、老いた漁師、それに牧師など。
みな善人であり、好意あふれる人たちである。
好意のなかでの好意。
もっとも養子になることを望んでいたミスティが、最後には選ばれる。
めでたしめでたしかと思っていると、ミスティは養子の話を断ってしまう。

 あんなに家族を望んでいたミスティだが、海で溺れたのをマップスに助けられて、ほんとうの家族はディセンバー・ボーイズだと悟る。
そして、映画は現代にとぶ。
マップスが死んだという報告で、3人がかつての漁村に集まって、マップスを偲びつつ、感謝する。


 1986年に公開された「スタンド バイ ミー」のような青春映画だが、単に甘酸っぱい青春の思い出を描くだけではない。
父と母のいる家族を望んだ1960年代には、核家族こそあるべき家族の姿であり、孤児たちは核家族にあこがれた。
だから、この映画は1960年代に時代設定している。
しかし、現代では話が違う。

 成人男女とその子供からなる核家族は、必ずしも理想の家族像ではない。
むしろ、単家族こそ家族の形になりつつある。
男4人でも家族になりうるのが、現代である。
そして、養子にならなかったミスティは、メルセデスで村に到着した。
彼は、今や裕福になっている。

 かつての海辺の村は、もはや1軒も残っていない。
ミスティが漁村で養子になっていたら、漁村の貧しい暮らしに埋没していただろう。
核家族を選ばなくて、正解だったのだ。
この映画は、核家族が崩壊したことを、肯定的に感じているのだろう。
だから家族として、養親より友情を選ばせたのだ。

 規則で縛っていた施設と、子供たちの悪さを許す村の大人たち。
湾の主だったヘンリーという大魚を、スパークが殺してしまっても、老漁師は埋葬せよと言うだけで、折檻することはない。
1960年代の我が国だったら、スパークはおそらくぶん殴られていただろう。

 自由に伸びる子供たちを、そのまま受けいれようとする。
思春期の子供は、性的な関心が強い。
子供は悪さをするものだ。
悪戯や悪さをしながら、大人になっていく。
子供の悪さは許される。
この映画の子供に対する視線は、完璧に現代のものだ。
いや、躾と称して、子供を折檻したのは、近代だけだったのかも知れない。

 ほとんどお金がかかっておらず、小さな映画だが、時代をよく理解している。
ややトンだ色も、古い時代にあっており、丁寧なつくりである。
ラドクリフはともかくとして、他の3人を演じた少年たちの演技が上手かった。
いくらか懐古的な感じもするが、「キャンディ」と同様に、オーストラリアの良心という感じがする。
星を献上する。 

2007年のオーストラリア映画
  (2007.12.12)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る