タクミシネマ        ボーン・アルティメイタム

 ボーン・アルティメイタム 
  ポール・グリーングラス監督

 最初から最後まで、息つく暇なく、アクションの連続。
アクション映画とはこうして作るのだ、とでも言っているような感じで、見る者をして圧倒させる。
多くのアクション映画は、会話のつなぎにアクションが入る。
が、この映画は会話がきわめて少なく、アクションだけで話を進めていく。

imdbから

 こんな繋ぎをする映画は始めてである。
文句なく星を献上する。
アクション映画でなければ、星を2つ献上するのだが、 残念ながら1つにとどめる。
アクション映画であるがゆえに、星2つにならないのは可哀想だが、映画の性格上やはりしかたない。
この映画は、アクション映画の新たな次元を切り開いた、と言っても良いだろう。

 記憶喪失になったジェイソン・ボーン(マット・デイモン)の、生いたちを明かす自分探し。
シリーズ3作目の最終作である。
第2作目の「ボーン スプレマシー」はアクション映画として秀作だったが、本作はその上を行く。
もちろん、第1作の「ボーン アイデンティティ」より、はるかにおもしろい。

 英国の新聞ガーディアンの記者サイモン(パディ・コンシダイン)が、ジェイソンとCIAに関する記事をスクープした。
ボーンはサイモンに連絡をとって、駅で接触しようとするが、CIAもそれを察知して逮捕しようとする。
2人を殺害に変更して狙撃するが、サイモンだけ殺され、ジェイソンは逃亡してしまう。

 CIA長官(スコット・グレン)の命をうけたノア(デヴィッド・ストラザーン)が、ブラック・ブライアーなるCIAの隠密作戦を隠蔽するために、ジェイソンの命を執拗に狙う。
ジェイソンの自分探しとあいまって、ロシア、ドイツからスペイン、モロッコへと画面は展開されていく。

 ブラック・ブライアーとジェイソンの自分探しのつながりが、ちょっと弱い感じがするが、そんなことはどうでも良い。
とにかく細かい仕掛けをたくさんおいて、しかも大きなアクションを次々に見せていく。
その展開が実に素早くて、ほんとうに気持ちよく画面に没入できる。

 今回もケイタイは重要な役割をはたし、もちろんコンピューターは必需品である。
前々作はパリでのカー・チェイスだったが、今回はモロッコのタンジールでの全力走と、オートバイ曲乗りである。
タンジールの町を家から家へと、手に汗を握るダイビングと、手持ちカメラが一緒になって追っていく。
カメラが小さくなって、カメラマンも大変になった。

 モロッコとそれ以外の都市の調子が、微妙に違う感じがしたが気のせいだろうか。
データーの設定を違えていた、と言うことはないのだろうか。
ところで、人物の顔を、けっして中心に置かない。
画面の半分近くをボカしている。
手持ちカメラ中心でありながら、構図もよく考えられている。
それに会話のタイミングも、ちょっとずらしており考えてある。

 ブラック・ブライアーとは、CIAが独断のアメリカ人を暗殺する計画だが、9.11以降のアメリカ情報機関を批判するのは明らかである。
令状なしでの盗聴や、身柄の拘束が横行し、テロ対策といいながら、人権無視がおこなわれている。
この映画は、それに対して大きく抗議している。


 CIAの長官と、対テロの最高責任者であるノアが、最後には逮捕される。
これはブッシュに対する批判であろう。
前回はCIAの役人であるパメラ(ジョアン・アレン)が、ジェイソンと敵対していたが、今回のパメラは正義そのものを追求する役どころになっている。
有能な弁護士が必要ね、という彼女の最後の科白は、カッコイイが問題がある。

 アクション映画は、腕力・体力勝負になりがちである。
だから、どうしても女性は添え物になり、007シリーズのように男性中心になる。
それに反旗をひるがえしているのが、アンジェリーナ・ジョリーの一連の映画である。
本作では屈強な男性一色である。
これはある程度仕方ない。
しかし、女性を正義派に描くのは止めて欲しい。

 この映画には、女性が2人しか登場しない。
1人はciaの上級調査官のパメラ、もう1人はマドリード支局の女性エージェントであるニッキー(ジュリア・スタイルズ)である。
たった2人しか登場しないにもかかわらず、2人とも主人公サイドつまり正義派なのである。
この映画は、犯罪に手を染めはじめた女性の自立を削いでいる。
悪人役の女性も登場させるべきだ。

 「Mr.& Mrs.スミス」などで、アンジェリーナ・ジョリーが必死になって、ブラット・ピットと同じように戦っている。
にもかかわらず、この映画の女性たちは男性とはまったく違う役回りである。
女性が非力なのは仕方ないが、性別によって役割を変えるのは、明らかな性差別である。
現実にも男女の役割は同じになりつつあるのだから、映画のなかでも男女の役割を同じようにすべきだ。

 以前は敵対していたパメラが、ジェイソンに味方するし、ニッキーが味方する理由にいたっては、ジェイソンを何となく嫌いになれないからと言うのだ。
2人とも正義派に位置する動機づけが弱い。
アクション映画だから良いが、この設定では、男女平等を指向するアンジェリーナ・ジョリーは不服だろう。
しかし、女性差別を差し引いても、優れたアクション映画である。
ちなみに「ボーン アイデンティティ」と「Mr.& Mrs.スミス」は、ともにダグ・ライマン監督がメガホンをとっている。 
 
2007年のアメリカ映画
  (2007.11.14)

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