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ゆっくりとした導入が、長い映画を予感させる。3時間近い映画である。 長いだけあって、重厚なつくりで、じっくりと話は展開していく。 しかし、丁寧なカットつなぎと、長いカットというのは違うだろう。 ややダレを感じるカットが多い。 有名俳優が大挙して登場するが、映画としては重い。
話は1961年のキューバ危機から始まる。 キューバにアメリカ軍が侵攻するが、上陸地点がソ連にもれており、上陸作戦は完全に失敗する。 その時のCIAの指揮官が、かつてアメリカ軍の諜報部隊に所属したエドワード(マット・デイモン)だった。 彼のもとに、ベッドシーンを撮った荒れた写真と、テープが送られてくる。 それから時間がさかのぼり、第2次世界大戦前夜、画面はイェール在学中の彼にとぶ。 優秀な成績だった彼には、スカル・アンド・ボーンズからお声がかかる。 政治の季節だった。 フレデリックス教授(マイケル・カンボン)の身辺調査を、FBIが彼に依頼してくる。 彼の密告により、教授はドイツ・シンパとして教職をおわれる。 当時、彼はローラ(タミー・ブランチャード)と恋仲だった。 が、上院議員の娘クローバー(アンジェリーナ・ジョリー)を妊娠させたことから、彼女と結婚する羽目になる。 そして、サリヴァン将軍(ロバート・デ・ニーロ)から諜報部隊への勧誘を受け、やがて承諾する。 しばらくたった結婚式当日、ヨーロッパへ出張するよう指令が来る。 何とロンドンには、イギリスの諜報部員だったフレデリックス教授がまっていた。 それに1961年をいったりきたりしながら、映画はすすむ。 結局、マット・デイモンのワンマン映画で、スパイとして生きたエドワードの半生を描いている。 この喜怒哀楽を表さないスパイ、一見冷徹なようだが、からきし女性にガードが甘い。 学生時代には恋人ローラがいるのに、クローバーから言いよられて簡単に陥落し、 しかも妊娠させてしまう。 ベルリン時代には、通訳のハンナ(マルティナ・ゲデック)から言い寄られて同衾する。 が、これがソ連のスパイだった。 そのうえ、再会したローラから迫られると、これまた簡単にベッドへ行ってしまう。 しかも、この時の様子がばっちり写真に撮られ、クローバーのもとへ届けられる。 失敗ばかりしながらも、家庭をかえりみずに仕事に熱中し、不思議なことに彼は出世していく。 「組織と妻子という2つの“家族”の間で揺れ動く主人公の人間ドラマを、マット・デイモンが熱演する」と、どこかの宣伝に書かれていたが、それはまったく嘘である。 彼は少しも揺れうごかない。 最後に、キューバの上陸地点をもらしたのは、 息子のエドワード・ジュニア(エディ・レッドメイン)だった、とわかる。 息子はCIAのエージェントであるにもかかわらず、 赴任先のコンゴで、ソ連の息のかかった女性と恋仲になってしまっていた。 息子の口から、上陸地点がもれたのだった。 息子がその女性と結婚することを、彼は許さない。 結婚式の当日、飛行機でやってくる花嫁を、空中へ放りだして殺してしまう。 国を守るか家族を守るかの二者択一を迫られるとき、 彼は何の躊躇もなく、息子には知られない方法で、息子の結婚相手を殺してしまう。 ソ連の諜報部員ミロノフが、アメリカに亡命しているが、実はこれが偽物だった。 彼の亡命を許可したのは、エドワードである。 そのうえ、本物のミロノフが亡命を希望してくると、拷問で殺してしまうというドジをやる。 映画を見終わって、よく考え直してみると、エドワードの仕事は、何一つとして成功していない。 にもかかわらず、諜報機関はどんどん大きな組織になっていく。 この映画の主題は、2つの組織のあいだで揺れうごく男の物語ではなく、 こんなダメな男が諜報組織で出世していくアメリカとは、いったい何なのか、ではないだろうか。 もしくは優秀な男が、仕事として諜報活動にかかわりながら、 その仕事がほとんど役に立たない、ということではないだらろうか。 あれと同じような主張をしたかったのではないだろうか。 最後にながれる字幕の中に、事実に触発されたと書かれていたが、CIA誕生はほぼこの通りだろう。 第2次世界大戦はともかくとして、冷戦、キューバ危機、ベトナム戦争と、CIAはほんとうに役に立ったのだろうか。 諜報機関であるがゆえに、すべて秘密のままで、検証されることがない。 そのCIA主導で、イランで抜き差しならなくなっている。 つまりCIA批判が、主題ではないだろうか。 家族と仕事とのあいだで、苦悩する男性を描くにしては、彼には失敗が多すぎるし、 息子の花嫁を簡単に殺しすぎる。 彼の長年のライバルだったロシアのスパイであるシヤンコ(オレグ・ステファン)に、 時代は変わる、昨日の敵が今日の味方となる、と言わせている。 これからも家族が主題ではなく、むしろ国家や正義などが主題なのだろう、と思う。 家族と仕事が主題だとすると、映画は結論をいっていない。 主題は諜報機関批判だとみれば、諜報機関をぼろくそに描いており、充分に説得力がある。 何の役にも立たないCIAが、組織だけは大きくなっていき、むしろアメリカを泥沼へと引きずり込んでいく。 ロバート・デ・ニーロの言いたかったのは、CIA批判だったと考えるほうが筋が通る。 「グッド・シェパード」とは、良き牧羊犬、つまり主人に忠実に仕える犬のことだ。 良き牧羊犬は、それ自体では良い存在である。 しかし、盲目的に主人に仕えると、結局、主人のためにもならないし、自分も犠牲になる。 映画は、そう言いたかったのではないだろうか。 マット・デイモンが、20歳頃から50歳くらいまで演じているが、 歳をとらずに風体がまったく変わらないのだ。 アンジェリーナ・ジョリーのやつれはメイキャップされていたが、これまた歳をとっていない。 これは最近のアメリカ映画では珍しかった。 2006年のアメリカ映画 (2007.10.25) |
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