タクミシネマ        パンズ ラビリンス

パンズ ラビリンス  ギレルモ・デル・トロ監督

 凝った美術に、ねっとりとした展開。
いかにもラテン国の作品である。
新しいモノを追いかけるのではなく、普遍的な人間像を追求している。
これもイギリス以外のヨーロッパ諸国に、典型の映画製作姿勢である。

photo of laberinto del fauno, el,  ivana baquero
imdbから

 1944年頃のスペインでの話。
内戦はフランコによって掌握されたが、各地にゲリラの残党がいた。
小学校高学年くらいだろうか、オフェリア(イバナ・バケロ)は母親のカルメン(アリアドナ・ヒル)が再婚したので、
母親と一緒に新たな夫ビルダ大尉(セルジ・ロペス)のもとへ行く。
そこは山奥の駐屯地で、ゲリラとの抗争の最前線だった。

 お腹の大きな母親は、生活のためにビルダ大尉と再婚したが、オフェリアは新しい父親になじめない。
山奥では彼女の知らないことばかり。
大尉の小間使いメルセデス(マリベル・ベルドゥ)が、かろうじて彼女の味方だった。
しかし、彼女はゲリラのスパイだった。

 オフェリアはフナムシを弄ったことから、妖精の世界へと引き込まれていく。
彼女は迷宮へと誘われ、そこで魔法の世界のお姫さまだ、とパン<牧神>から知らされる。
そして、魔法の世界へ戻るために、3つの試練を与えられる。

 現実のフランコ軍とゲリラの戦いを背景にして、魔法の世界と現実を行ったり来たりしながら、物語は進んでいく。
こうした映画の常として、映画製作者はゲリラ側にたっており、フランコ軍は悪者に描かれている。
そして、ゲリラ活動をする正当性を、オフェリアの試練に重ね合わせている。

 オフェリアは最後の試練で、パンのいうことに逆らって、産まれたばかりの弟を引き渡さない。
その結果、試練に落第し殺されてしまい、魔法の国へは行けない。
しかし、弟の命を守ることが、実は試練だったのだ。
彼女は試練に合格し、魔法の国へと行くことができたが、その時には彼女は息絶えていた。

 パンがいう。
「ほかの人の命のために、自分の命をさしだした。正しい行動をしたので、魔法の国のお姫さまになる」と。
これはゲリラ闘争の正当性の根拠を言っているのだ。
傲慢で残酷なフランコ軍に反旗をひるがえすゲリラたち。
ゲリラこそ庶民のために戦って、命を惜しまない人たちである。 

 この映画は、フランコ軍に敗れていった、ゲリラたちへの鎮魂歌として撮られたのだろう。
劣勢にありながら、なぜゲリラが戦ったのか。
正しい人たちのためだ。
反旗をひるがえした正当性は、いまでも維持されており、フランコの圧政には反対である、と意思表示している。
それはよく伝わってくる。

 この映画が描くのは、近代の支配権を確立した政府に反抗する理念である。
しかし、ゲリラが勝って革命政権を樹立すれば、反対にフランコ軍にも通用するものだ。
結局、どんな政権であっても、庶民の幸せのために支配するのであり、
それなくして支配は維持できない。


 フランコ軍は圧政で有名だったが、革命派のポルポト軍だって、きわめて残虐だった。
この映画が描く範囲は、すでに近代国家によって越えられてしまっており、この映画の主張は反逆の正当性の根拠とはならない。
ヨーロッパ諸国では、革命によって政権がひっくり返ってきたので、こうした正当性が何度も描かれるのだろう。

 南米、中欧など、圧政が続いた国では、どこでも童話や寓話がさかんになる。
まっとうに発言すれば、ただちに監獄行きだから、寓話に託して反政府の発言をするのだろう。
いまや民主主義国になったスペインでは、いまだに童話の伝統が残ったのだろう。
   2006年のスペイン・メキシコ映画
  (2007.10.10)

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