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何とも説明のつけようがない。奇妙な映画である。 前宣伝のビラには、ダメ男三部作の最終編と書かれていたが、ホント、そうとしか言いようがない。 フィンランドは先進国であるはずだが、人口の少ない国は、こんなにのんびりした映画を撮るのだろうか。 「過去のない男」は密実につくられていたが、この映画は省略が進んだといったらいいのだろうか。
キアロスタミ監督のイラン映画「友達の家はどこ」などのように、事件らしい事件は起きない。いや事件は起きているのだが、主人公の反応はいたって冷静である。 そこがとても不思議な展開で、奇妙な感じがのこった。 まじめに勤務しているのだが、向上心がみられずに評価は芳しくない。 そんなとき、窃盗団の一味が、彼に1人の女性ミルヤ(マリア・ヤンベンヘルミ)を接近させてきた。 人間関係にはまったく疎い彼のこと、恋人ができたと喜ぶ。 しかし、こんなダメ男に、恋人ができるはずがない。 ふつうの監督は、恋人の登場を説得的に描き、最後にどんでん返しと描くはずだが、この監督は最初から恋人ではない、と描いている。 彼女の目的は、彼のもっている鍵であり、暗証番号を盗むことだった。 彼女はやすやすと目的を達成し、窃盗団は宝石を盗んで、彼はお役ご免となる。 彼は利用されたのを知っても、激怒するというのでもない。 平静と変わらない。 彼女たちのことは何も喋らずに、ひとり窃盗幇助罪で有罪判決を受けて収監される。 出所後に就職したレストランで、窃盗団と遭遇する。 すると、窃盗団の親玉が、彼の前科を店に教え、彼は首になる。 とうとう彼は切れて、ナイフで復讐を企てる。 しかし、ダメな彼のこと。 たちまちボコボコにされて、放りだされる。 そこへ、お姉さんらしきアイラ(マリア・ヘイスカネン)が駆けつけて、映画は終わる。 主人公は無気力、無目的というわけではない。 やがては会社を興そうと、夜学に通ってもいる。 開業資金の融資に、銀行へ相談にも行く。 まるで子供じみた行動というわけでもないのだが、しかし、なぜかガッツを感じさせない。 ことさらに起伏を作らず、ボコボコにされるシーンも見せない。 かつてのロシア映画のように、物陰に連れていくところでカットし、次のシーンは傷ついた男を登場させて終わりである。 科白も極端に少なく、ボソボソと喋るだけ。 窃盗団に復讐するところも、激情にかられるというのではなく、果物ナイフをとりだして、ちょっと研いだだけで斬りつける。 あんな動きでは、最初から復讐がなるとは思えない。 彼のどんな行動も、すべて失敗すると決まっている。 それぞれのシーンは動きが少なく、登場人物はとまっていることが多い。 動いているシーンは、歩いている場面くらい。 斬りつけるシーンだって、きわめて静的である。 また、1人の顔がアップにされるシーンが多く、画面の中央に固定されたままである。 顔の表情が演技している、といえば言えなくもないが、動きの少ない画面は映画的ではない。 とにかく全編が静的で、すこしも動的ではない。 しかし、まったくの退屈かというと、必ずしもそうではなく、奇妙な雰囲気があるので、何となく最後までみてしまう。 1時間18分という短さが救いである。 映画の撮り方が大昔のようで、かえって、そこが新しく感じさせるのかもしれない。 しかし、主題らしきものを探せば、ダメ男といえども、変わらない人間のあり方だろうか。 農業社会の人間のような、口数が少なくぶっきらぼうな態度が、長い視点の人間観察だと言えなくもない。 ハリウッド映画に飽きた人には、歓迎されるかもしれないが、映画が娯楽だとすれば、これほど無気力な娯楽というのも少ないだろう。 きわめて少ない登場人物、セットもくまず、何も壊れず、実に安上がりな映画である動きの少ないこうした作風が、この監督の持ち味なのだろう。 昼間にもかかわらず、若い人たちが映画を見ていた。 途上国の映画のようだった。「Lights in the dusk」 2006年のフィンランド映画 (2007.8.15) |
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