タクミシネマ         街のあかり

街のあかり   アキ・カウリマスキ監督

 何とも説明のつけようがない。奇妙な映画である。
前宣伝のビラには、ダメ男三部作の最終編と書かれていたが、ホント、そうとしか言いようがない。
フィンランドは先進国であるはずだが、人口の少ない国は、こんなにのんびりした映画を撮るのだろうか。
過去のない男」は密実につくられていたが、この映画は省略が進んだといったらいいのだろうか。

街のあかり
公式サイトから

 キアロスタミ監督のイラン映画「友達の家はどこ」などのように、事件らしい事件は起きない。いや事件は起きているのだが、主人公の反応はいたって冷静である。
そこがとても不思議な展開で、奇妙な感じがのこった。

 主人公のコイスティネン(ヤンネ・フーティアイネン)は、警備会社に勤務し、夜警をやって3年になる。
まじめに勤務しているのだが、向上心がみられずに評価は芳しくない。
そんなとき、窃盗団の一味が、彼に1人の女性ミルヤ(マリア・ヤンベンヘルミ)を接近させてきた。

 人間関係にはまったく疎い彼のこと、恋人ができたと喜ぶ。
しかし、こんなダメ男に、恋人ができるはずがない。
ふつうの監督は、恋人の登場を説得的に描き、最後にどんでん返しと描くはずだが、この監督は最初から恋人ではない、と描いている。
彼女の目的は、彼のもっている鍵であり、暗証番号を盗むことだった。

 彼女はやすやすと目的を達成し、窃盗団は宝石を盗んで、彼はお役ご免となる。
彼は利用されたのを知っても、激怒するというのでもない。
平静と変わらない。
彼女たちのことは何も喋らずに、ひとり窃盗幇助罪で有罪判決を受けて収監される。

 出所後に就職したレストランで、窃盗団と遭遇する。
すると、窃盗団の親玉が、彼の前科を店に教え、彼は首になる。
とうとう彼は切れて、ナイフで復讐を企てる。
しかし、ダメな彼のこと。
たちまちボコボコにされて、放りだされる。
そこへ、お姉さんらしきアイラ(マリア・ヘイスカネン)が駆けつけて、映画は終わる。

 主人公は無気力、無目的というわけではない。
やがては会社を興そうと、夜学に通ってもいる。
開業資金の融資に、銀行へ相談にも行く。
まるで子供じみた行動というわけでもないのだが、しかし、なぜかガッツを感じさせない。


 誰にも相手にされないという主題の設定も不可思議だが、物語の展開もあえて平坦にしている不思議さである。
ことさらに起伏を作らず、ボコボコにされるシーンも見せない。
かつてのロシア映画のように、物陰に連れていくところでカットし、次のシーンは傷ついた男を登場させて終わりである。

 科白も極端に少なく、ボソボソと喋るだけ。
窃盗団に復讐するところも、激情にかられるというのではなく、果物ナイフをとりだして、ちょっと研いだだけで斬りつける。
あんな動きでは、最初から復讐がなるとは思えない。
彼のどんな行動も、すべて失敗すると決まっている。

 それぞれのシーンは動きが少なく、登場人物はとまっていることが多い。
動いているシーンは、歩いている場面くらい。
斬りつけるシーンだって、きわめて静的である。
また、1人の顔がアップにされるシーンが多く、画面の中央に固定されたままである。

 顔の表情が演技している、といえば言えなくもないが、動きの少ない画面は映画的ではない。
とにかく全編が静的で、すこしも動的ではない。
しかし、まったくの退屈かというと、必ずしもそうではなく、奇妙な雰囲気があるので、何となく最後までみてしまう。
1時間18分という短さが救いである。

 映画の撮り方が大昔のようで、かえって、そこが新しく感じさせるのかもしれない。
しかし、主題らしきものを探せば、ダメ男といえども、変わらない人間のあり方だろうか。
農業社会の人間のような、口数が少なくぶっきらぼうな態度が、長い視点の人間観察だと言えなくもない。

 ハリウッド映画に飽きた人には、歓迎されるかもしれないが、映画が娯楽だとすれば、これほど無気力な娯楽というのも少ないだろう。
きわめて少ない登場人物、セットもくまず、何も壊れず、実に安上がりな映画である動きの少ないこうした作風が、この監督の持ち味なのだろう。
昼間にもかかわらず、若い人たちが映画を見ていた。
途上国の映画のようだった。「Lights in the dusk」
 2006年のフィンランド映画
   (2007.8.15)

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