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リドリー・スコットが監督で、ラッセル・クロウが主演とくれば、少しは期待してしまうものだ。 しかし、残念ながら、外れだった。
小さな頃マックス（ラッセル・クロウ）は、叔父さんのヘンリー（アルバート・フィニー）が住む、南仏プロヴァンスですごした。 両親を失った彼は、ブドウ畑を所有し小さなシャトーに住むヘンリーに、教育されて育った。 そして、成人するとロンドンに移り、株のディーラーになり、大金を稼いでいた。 ヘンリーの死を知らされて、彼は久しぶりにプロヴァンスへと向かう。 彼はたった１人の遺産相続人だった。 ブドウ畑を管理してきたフランシス（ディディエ・ブルドン）とその妻や、 アメリカ人私生児のクリスティ（アビー・コーニッシュ）の登場など、相続をめぐる話が基調と展開する。 そんななか彼は、幼なじみのファニー（マリオン・コティヤール）と、恋に陥る。 ファニーは今でも地元を離れずに、レストランを営んでいた。 彼女は美人で鼻っ柱が強く、離婚経験こそあるが、 地元の男たちの憧れだった。 彼は彼女の鼻っ柱の強さに、ひかれただけではない。 ロンドンでの世知辛い毎日と違って、プロヴァンスという田舎のノンビリした空気に参ってしまったのだ。 幼いときに過ごした場所が、懐かしいというのはわかる。 しかし、現在のロンドンでは恋が成立せずに、 田舎で女性に巡り会うというのは、どうも不可解である。 ファニーのように鼻っ柱の強い女性は、むしろ都会にこそ生息しており、田舎の女性は従順な性格が多い。 田舎の仕事は、男性を鈍重で無口にし、女性を従順にする。 都会の仕事は男女の差が少なく、跳ねっ返りの女性をうみやすい。 マックス好みの女性は、都会にこそいる。 にもかかわらず田舎の生活が、人間的だと描くのは、極めつきの懐古主義である。 ロンドンという金融市場は、非人間的な労働環境であり、 そこで働くことは人間性をすり減らし、恋などできない、となぜ考えるのだろうか。 都市生活者は、都市生活者の生活習慣を身につけており、田舎の人とは違う倫理に生きている。 映画製作者たちは、田舎が人間的で、ロンドン金融街は人間的はない、 というが、それは彼等の根拠なき偏見である。 人は田舎に向かうのではなく、都市に向かって移住しているというのに、どうして田舎が良くて、都市はダメだと描くのだろう。 １９世紀であれば、都市はたしかに、人間を飲み込むルツボだった。 都市は不健康で、スラムの存在が人命を縮め、人を不幸に追いやった。 しかし、今日では都市は不健康ではない。 むしろ風土病のはびこる田舎のほうが不健康で、因習に満ちている。 田舎より都会のほうが、恋が芽生えやすい。 こうした情況をまったく無視して、田舎を賛美するのは、現実無視のセンチメンタリズムに過ぎない。 しかも、この映画の主人公は、田舎にも相続財産をもつという、大金持ちなのだ。 「テルマ＆ルイーズ」では、シャープな時代感覚を見せた監督だが、 すでに７０歳になろうとしている以上、期待するのは無理だった。 南仏プロヴァンスの空気が、コダックのフィルムによって、かすかに霞がかかったように映し出されて、 実際にはもっと美しいのだろうと思わせた。 フランス人の英語と、イギリス人の英語、それにイギリス人にフランス語を教えるフランス人と、 これはこれで屈折しているのだろう。 原題は「A good year」 ２００６年のアメリカ映画 （２００７．８．９） |
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