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小説のなかで殺人がおこなわれても、実際に人が殺されるわけではない。 作家の書く小説は、虚構である。 映画ももちろん虚構である。 しかし、小説の主人公が実在した。 というより、ある男性(ハロルド・クリック)が、小説の描くとおりに行動していた。 ある時、ハロルドがそれに気づく。
小説にしたがった毎日を送っていたハロルドは、小説の結末が気になった。 すると何と主人公は死ぬのだ。 彼は慌てて、行動を起こす。 と、奇想天外ではあるが、話は単純なものだ。 この映画の鍵は、彼が相談に訪れた文学専攻のヒルバート教授(ダスティン・ホフマン)である。 草稿を見せられた彼は、死のエンディングは必然で、死以外の結末はない。 この小説は文学史に残る名作だ。小説の結末に従え、という。 実在の人間の命より、文学史上に残る名作のほうが大切だというのだ。 観念と現実が転倒している、と普通の人は思う。 現代社会はコンピューターが支えている。 飛行機が飛ぶのも、食料品が店頭に並ぶのも、いまやすべてコンピュータが支えている。 コンピュータのなかでは、機械言語が働いており、その機械言語は虚構なのだ。 虚構の言語に、現実が動かされている。 それが現代社会である。 近々インフラをハイジャックする映画すら、公開されようとしている。 この映画の設定は、奇想天外でも何ともなく、現実社会そのものなのだ。 ミネルバのフクロウは、夕暮れに飛翔するの喩えどおり、 かつては現実が先にあり、虚構はその後付であった。 しかし、今や虚構が現実を支配する。 この主題は、「ザ ファン」や「ファイト クラブ」などで、すでに描かれている。 この映画は、情報社会の映画であることは間違いなく、 我が国では単なるコメディと見られてしまい、主題は理解されにくいだろう。 また、作家がイギリス人という設定で、小説家カレンを演じるエマ・トンプソンがイギリス人、 しかも、自殺願望があるというのも判りにくいかも知れない。 そのうえ、アメリカ人の大学教授が、イギリス・コンプレックスというのも、見損なってしまうかもしれない。 それに対して、ハロルドが恋に陥るアナ(マギー・ギレンホール)は、わかり易いだろう。 彼女はハーバードの落第生で、パン屋を営んでいるというが、 我が国でも大卒の肉体労働者はいるから、これも今ではあり得る話だ。 皮肉や諧謔を一杯ちりばめた映画で、それなりに楽しめるが、 仕掛けが判ってしまうと、映画的な魅力に不満を感じる。 見終わった直後には、星を付けようかと思っていたが、 1日たってみると、たいした映画ではなかったと思う。 虚構が現実を支配しているという面白い主題でありながら、 最後にはクッキーを食べるといった、現実のささいなことこそ幸福の証だという。 虚構と現実をならべて、現実に軍配を上げているのは、簡単にすぎる。 着想に頼っているだけだ。 たしかに虚構である機械言語は、人間に温かさを感じさせてはくれない。 しかし、機械言語で制御された環境は、とても人間に優しい。 生の自然は過酷ですらある。 現実が主、虚構が従であっても、両者は対立するだけではなく、 もっともっと錯綜した関係にあるはずだ。 まだ40歳前の監督だが、前作「チョコレート」などを思い浮かべると、このあたりが限界だろうか。 原題は、「Stranger than fiction」 2006年のアメリカ映画 (2007.5.22) |
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