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物語の素早い展開、何度も繰りかえされる狙撃シーンへの深い意味付け、同時代性、 そして、論理的な進行。 テロリストをも人間としてみる公平な目。 最後はちょっとご都合的になったが、それでも独創的な展開のこの映画に、星を2つ付ける。
テロ撲滅のためのサミットが、スペインでおこなわれた。 演説会場は、テロへの厳重な警戒がしかれている。 レックス(シガニー・ウィーバー)の仕切るテレビ・クルーが、現場中継している。 レポーターが原稿にない台詞を喋るのが、何か意味ありげである。 サミットを訪れた米国のアシュトン大統領(ウィリアム・ハート)が、 広場での演説台に立ったとたんに狙撃された。 この事実を、少しずつ視点を変えて、8回も繰りかえして見せる。 それぞれに見る者からの視点があるから、まったく不自然ではない。 主人公は、シークレット・サービスのバーンズ(デニス・クエイド)である。 彼は6ヶ月前、大統領を守って銃撃された。 今回は、現場復帰の初回であるにもかかわらず、また大統領が狙撃されてしまった。 これが大きな伏線になっているが、この伏線にはなかなか気づけないだろう。 大混乱のなかバーンズ(デニス・クエイド)は、犯人探しに奔走する。 この映画は筋を書いても、あまり意味はない。 大統領の狙撃をめぐって、攻撃する方と守る方、 それに現場に立ち会ったアメリカ市民のハワード(フォーレスト・ウィッテカー)たちからの視線を、 それぞれに並列的に見せていく。 そして、最後には一つの物語をまとめ上げていくが、その力量は大したものだ。 アメリカ映画だから、まずシークレット・サービスや、大統領側の裏面が描かれる。 次に、いきなりテロ側を描くのではなく、スペインに観光に来たアメリカ市民ハワードと、 スペイン人との交流をあいだに挟む。 そして、テロの実行である。 そこで狙撃と爆破前の伏線が、一挙に表にでて、物語はすさまじい早さで展開し始める。 テロ直後の犯人を捕らえるわけだから、何よりもスピードである。 それが実にうまく展開する。 8つの別の話を並べると、説明的になりそうだが、 説明的なシーンから徐々に動的なシーンへとつなげており、 息も切らさずに引き込んでいく。 次のシーンではそれを観客に種明かしする。 決して最後まで待たせない。 この手法が憎いばかりである。 物語の進行と謎解きが、ほんの少しだけ時間をずらしながら、 ほぼ同時進行で進んでいく。 そのため、観客は疑問をもつと同時に、その回答が示されて、 小気味良いリズムで映画の世界に没入できる。 観客はもう監督の手中にはまっている。 引きのシーンと手持ちカメラのシーンが、静と動を上手く演出する。 カーチェイスのシーンはちょっと長い気がするが、それも許容範囲である。 狙撃された大統領が、じつは替え玉だったというのが、途中でバラされる。 しかし、それから物語はまた一転する。 自分が狙撃される瞬間を、大統領はテレビで見ている。 その時、側近からテロ組織への大規模報復を求められるが、大統領はそれをきっぱりと拒否する。 舞台裏での、本物の大統領の発言がなかなかに鋭く、 危機に直面したときの側近たちとの確執もうなずける。 シークレット・サービスのほうにも、裏切りがあるように、テロ側にも内紛がある。 それが物語に複雑さを加えている。 テロ側が救急車を持ち出した時点で、先が読めてしまったが、それでも手に汗を握る展開である。 物語性だけではなく、映像の臨場感が観客を画面に引きつける。 アメリカ映画だから、テロリストを極悪非道に描くと思いきや、 テロリストも同じ人間として見なしている。 道路上の子供を避けるために、テロリストがハンドルを切り、車は横転してしまう。 これで大統領が救出される。 シガニー・ウィーバーがでているが、有名な俳優の演技で見せる映画ではない。 明らかに物語りと演出で見せている。 大統領側の裏事情を伏せておくのは不可能だろうが、 それでも替え玉を使ったことは公表されない。 大統領は現場にいるという原則をつらぬく。 大衆社会の政治家のあるべき姿は守っている。 この処理が実に上手い。 このあたりは、実際に近いのかも知れない。 「ボーン・アルティメイタム」などのアクション映画は、映画の背景を考える余地が少ないので、 どうしても2つ星の対象になりにくい。 しかし、斬新な構成のこの映画には、星を2つ献呈する。 スペイン語の台詞と英語の字幕がともに、「好きか?」と聞いているのに、 日本語の字幕は「美味いか?」になっていたのが、ちょっと気になった。 劇場の出口で、何が何だか判らなかったと、中年男性が言っていたのが印象に残った。 2008年アメリカ映画 (2008.03.12) |
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