タクミシネマ        ジャンパー

ジャンパー    ダグ・ライマン監督

 テレポート=ジャンプできる少年の話であるが、誰でもが飛べるわけではない。
普通の映画なら、なぜ彼が飛べるのかといった説明があるはずだ。
しかし、この映画はテレポート能力にかんしては、まったく説明しない。
とにかく彼は超能力者になった。

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 突然、テレポートできるようになったデヴィッド少年(ヘイデン・クリステンセン)が、
銀行の金庫に進入し大金を奪う。
その後は、超能力を生かして、優雅に暮らしている。
彼には思いを寄せるミリー(レイチェル・ビルソン)がいる。

 これだけなら映画にならない。
ジャンパーに対して、パラディンと呼ばれるジャンパー狩人のローランド(サミュエル・L・ジャクソン)が登場する。
ジャンパー対パラディンは、ちょうどヴァンパイヤー対ヴァンパイヤーのように、
永遠の敵対者であるらしい。

 しかし、詳しい関係は、まったく説明がない。
スーパーマンは生い立ちを説明していたが、バットマンはそれほど説明しない。
時代が下るに従って、説明はますます少なくなっていく。


 状況や背景の説明ははぶき、飛ぶ事実だけを次々に画面に映し出す。
それはそれは早い展開である。
おそらくマニア相手の物語なのだろうから、これで良いのだろう。
しかし、この早さは先進国のもので、高齢者や途上国の観客は、この早さについてはこれないだろう。

 ジャンパーであるデヴィッドが逃げ、パラディンのローランドが追う。
デヴィッドが逃げて、あるときはピラミッドの上、ある時はエンパイアステートビルの上、そしてある時は、東京へと移動する。
飛ぶこと以外に、この映画は何の主題も語らない。

 「スパイダー マン」だって、超能力を持ってしまった人間的な苦悩とか、
悪に汚染される人間の歪みといった話をからめている。
しかし、この映画は見事に背景とか主題を描かない。
ただ、場所から場所へと飛ぶだけ。
そして、それをパラディンが追うだけ。

 実はジャンパーは彼だけではない。
パラディンのジャンパー狩りから、何年も逃げているジャンパーにグリフィン(ジェイミー・ベル)がいた。
彼は孤独を好み、1人でパラディンと戦ってきたが、デヴィッドが2人で戦おうと提案する。

 デヴィッドの母親メアリー(ダイアン・レイン)もジャンパーだったが、
パラディン側に立っていると、後半になって開かされる。
しかし、彼女は我が子が窮地に陥ったときに、パラディンを裏切ってデヴィッドを助ける。
そのあたりもほとんど説明がないままで、メアリーは敵味方を行ったり来たりする。

 この映画は、マニアだけがわかればいいのだろう。
そう考えれば、バットマンだって背景はわかりにくい映画である。
ただバットマンは漫画的な表現だったが、この映画は実写的だという違いがあるだけだ。


 ジャンパーがただ逃げ、パラディンが追う。
この映画はただそれだけで、えんえんと画面を作っていく。
ヴァンパイアーは最後に死ぬが、このジャンパーはパラディンをうち負かして、映画が終わる。
第2作が作られるようなエンディングであるが、どんな展開になるのだろう。
想像はつかないが、たぶん見ないだろう。
2007年アメリカ映画
(2008.04.09)

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