タクミシネマ          太陽に抱かれて

 太陽に抱かれて  ミラ・ナーイル監督 

 共産党政権を嫌って、革命後にはキューバから自由の国アメリカへ、多くの難民がわたって来た。
その中にファン・ペレス(A・モリーナ)とドティ・ペレス(マリサ・トメイ)がいた。
ファンの家族は一足先にアメリカへ脱出したが、彼はサトウキビ農場の仕事があったので少し遅れた。

 ところがその間に彼は、政治犯として逮捕され20年間も拘留される。
そして今やっと、釈放され妻カルメラや子供の待つアメリカへ渡ろうとしている。
そのとき、自由をあこがれるサトウキビ畑の娘ドティも、アメリカへ渡ろうとしていた。

 マイアミに着いた二人は、他の人々といっしょに難民施設へ収容される。
ファンは家族がいるので、簡単に入国できると思っていたが、家族の迎えがない。
カルメラたちと先にアメリカへ渡った奥さんの弟が、港で彼を見つけられなかったのである。
物語が進むにつれ、この男がファンを憎んで、看守に賄賂を送って彼の出獄を妨げていたことが判る。
そして、ファンとカルメラが合うことを妨害する。もちろん独り身のドティは、難民施設から出られない。

 アメリカに身寄りのない者が、この施設から出るためには、後見人が必要である。
若い独身女性は後見人のなり手がなく、家族が多いと容易に後見人が得られる。
そこでドティは、即席の家族を作る決心をする。
ファンが夫、自分が妻、おしで奇行癖のある老人が祖父、そして子供をつかまえて四人の家族をでっち上げる。

 ラテンアメリカでは、ペレス姓が多い。
この四人はすべてペレス姓だからと、たやすく家族になる。
すると教会の牧師が、後見人になってくれ、施設の外へ出ることができた。
ファンは家族を探すが、20年の隔たりでなんかすれ違い。

 20年間ファンを待ったカルメラは、20年という区切りで、夫をあきらめ始める。
長い年月が変心を呼び、彼女の家に巡回に来たFBIの刑事ジョンに恋心を感じる。
そんな時ダンスパーティで、ファンとカルメラがやっと遭遇。
分かれていた家族が再会する。
そして、夫婦のよりそう姿を見たドティは、一人寂しくそこを去る。
しかし、彼等の20年は長く、家族をつなぐ絆は薄れていた。
ファンはドティのもとへ戻り、カルメラは新しい恋人ジョンと結ばれる結末で、映画は終わる。

 家族の本質を考える映画の一つであるが、またここで新たな家族の概念が提示された。
ファンもカルメラも共に愛し合っている。
それでいながら、長い時間が二人を隔てるとき、愛情が変質し、他の人間に愛情が移るのは自然だ、とミーラー・ナーイル監督は言う。
この結論を引き出すため、映画自体は少し無理をしている。
二人の仲を引き裂こうとする義弟を登場させたり、二人に同時に恋の相手が登場したり、ドティがやけに魅力的だったりと、ご都合主義的である。
しかし、それには目をつぶる。

 緩急ある物語の展開、さまざまに含みのある台詞、障害のある人間への温かい視線、愛の賛歌、自由のない社会への批判的な見方などが、コミカルなタッチのこの映画を奥の深いものにしている。
少ない観客はほとんど笑わなかったが、監督はコメディーとして作っていることは明らかで、アメリカでは充分に笑いがとれたと思う。
この映画を笑うには、我が国では現実感がない。

 ドティが美人で、陽気で生きることにまじめで、しかもヴィーナスのような素晴らしい褐色の健康体。
実にチャーミングなキャラクターである。
脇役がいい。
おしの祖父は、すぐ裸になって高いところにのぼる。
難民施設に収容されている黒人のおばさんがやさしい。
色とりどりの人々がならぶラテンアメリカの国、そしてアメリカ。
何度かある顔のアップも、無言の顔がよく物語っている。

 子供がドティたちのためたお金を猫ばばする。
その子供がギャングに金を借りて殺される。
自由の国アメリカへ来て、自由の代価を知るドティ。
エルヴィス・プレスリーも死んだ、ジョン・ウエインも死んだ。
青い鳥は心のなかにいると知る。
ミーラー・ナーイル監督は、あのつまらない「カーマ・スートラ」を撮っているが、カラーフルな色彩にあふれるこの映画は大成功である。
原題は、「The Perez Family」だが、「太陽に抱かれて」とはとても良い邦題である。
1995年アメリカ映画。


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